アメリカのインフレと住宅事情

最近あちこちで物価高が騒がれています。

私達の生活に大きな影響が出るこのインフレですが、アメリカでは日本よりはるかに高い水準でインフレが進んでいます。

今回はアメリカで実際に体感しているインフレについて住宅市場を中心にご紹介していきます。

 

インフレとは

まずインフレとは物やサービスの値段が上がることで、正常な成長を続ける相場では年間約2%のインフレが期待されています。

よく知られていることですが、日本は過去20年ほどインフレとは真逆のデフレ状態が続いています。

一方アメリカではパンデミック以前はリーマンショックなどあった数年を除いて過去20年ほどの間インフレ率は年間約2%を推移しています。

コロナパンデミックの打撃を受けた2020年は1.2%ほどに落ちましたが、その後大きな反発があり現在の非常に高いインフレ率を経験しています。

日本のニュースでは少し大袈裟にアメリカのインフレが取り上げられている場合もありますが、私自身も近年のインフレ率の高さは顕著に感じます。

その一つが住宅事情です。

私はアメリカに6年ほど住んでいますが、今まで賃貸を2軒、住宅購入を2回経験しています。このうちパンデミック前に賃貸を2軒と住宅購入を1軒、そしてパンデミック後半に1軒の住宅を購入しました。

パンデミック前後の賃貸事情も大きく変化したようですが、今回は住宅購入について着目していきます。また今回は住宅価格を実際のアメリカドルとともに日本円を記載していますが、現在の円安を考慮せず1ドル=110円で計算しています。

 

 

 

アメリカの住宅購入システムについて

住宅購入で経験したインフレの影響について説明する前に、アメリカの住宅購入のシステムについて少し触れたいと思います。

アメリカで不動産を売る時にはSeller(売主)がListing price(売りたい金額)をつけます。このListing priceに対してBuyer(買手)がオファーを出します。ちょうど入札のような感じで、オファーにはいくらで買うかや他の購買条件を記載されます。

つまり複数のBuyerがいる場合Sold price(実際の売り値)がListing priceを上回ることも珍しくありません。また好景気の時や低金利の時は多くの人が物件を購入を検討するためBuyerが増えオファーの競争が激しくなります。

 

パンデミック前の住宅市場

私がパンデミック前に購入した際は景気の良い時期だったので住宅市場は少々加熱気味でした。1つの物件に対してオファーが10個以上くることも珍しくありませんでした。

私が最初に購入した物件はListing priceが54万ドル(約5940万円)でした。この当時はListing priceの10%から15%増しでオファーを出すことが勝つためのセオリーとされていたため、Listing priceを約10%上回る61万ドル(約6710万円)でオファーを出しました。他にもオファーがありましたが、我々のオファーが一番良い条件だったため無事この物件を勝ち取ることができました。

 

この物件購入から4年ほどして、パンデミックにより夫婦とも在宅ワークとなり少し手狭になってきたこともあり、我々は再び住宅購入を検討し始めました。

この時はまだパンデミック中でしたが、アメリカでは急激に景気が回復し始めた時期で、住宅市場はオーバーヒート気味でBuyer(買手)にとって非常に競争が激しくなってきていました。

物件探しを始めてから実際に購入するまで10ヶ月ほどかかり、この間に急激なインフレを体感することとなりました。以下、私が実際に経験したことをご紹介します。

 

パンデミック中の住宅市場

まず我々の予算は150万ドルから160万ドル(約1.6〜1.75億円)ほどで一軒家の購入を検討していました。

探し始めてから以前よりもはるかに競争が激しくなっていることに気付きました。100万ドル(約1.1億円)程でListingされた物件が150万ドル(約1.65億円)程で売られたというのも頻繁に起きており、前回のセオリー(Listing priceの10%から15%増しでのオファー)はもう通用しない状況となっていました。

そんななか我々が最初にオファーを出したのは120万ドル(約1.3億円)のListingされていた物件でした。この物件に対して我々は30%増の160万ドル(約1.8億円)でオファーを出しました。しかし一番強いオファーは180万ドル(約2億円)であり、結局Listing priceの50%増で売買されたのです。

次にオファーを検討した物件のListing priceは200万ドル(約2.2億円)でしたが、かなり早い段階で250万ドル(約2.75億円)のオファーが来たとの連絡があり我々は諦めました。これも最終的にはListing priceから25%増で買手がつきました。

毎週のようにオープンハウス(物件を一般に公開すること)に行き、さまざまな物件を見ていましたが、我々が実際にオファーを出したのは2軒のみでした。ただこの間オープンハウスで見てきた物件が実際いくらで売買されたかは常にチェックしていました。その中で一番驚いたのは、200万ドル(約2.2億円)でListingされた物件が300万ドル(約3.3億円)で売られたことです。Listing priceの50%増、なんと100万ドル(約1.1億円)増です。これは住宅市場内でも大きなニュースとなりました。

最終的に我々が購入した物件は、パンデミック後半で金利が上がり始めた時だったため住宅市場の熱も落ち着きつつあった頃で他にオファーがなくListing priceのままでの購入ができました。とはいえ、住宅価格はその間に大きく上昇し最初に想定した予算を大きく上回る200万ドル(約2.2億円)での購入となりました。

 

データで見るインフレと住宅市場

以下のグラフは、私の住むワシントン州の一軒家の平均価格の推移を表しています。(私の住んでいるのは都市部なので価格は大体2倍となっています)

縦軸は一軒家の平均価格を100万ドル(約1.1億円)単位で表しています。グラフを見ると、2020年の頭には65万ドル(約7150万円)だったのが2022年には100万ドル(約1.1億円)になっているのがわかります。つまり2年間で50%ほど住宅価格が上昇したことになります。価格の上昇傾向が確認できる2012年から2018年においては年間10%前後での上昇率になっているのを見るとパンデミック中の住宅価格上昇率は非常に高く、現在のインフレ上昇が反映されています。

 

ただグラフの最新のデータ(プロットの右端)は急激に下がっているのが分かります。これはインフレ対策のため金利の引き上げを行ったため住宅の購入を検討している人が少なくなっているためです。実際に最近の住宅市場はかなり落ち着いており、以前は売りに出してからPending(なんらかのオファーをSellerが承諾する)になるまでは5日ほどでしたが、今は2週間たってもオファーが全くこないという物件もかなりあるようです。この状況からも当面は住宅価格の上昇は抑えられることが予測されます。

この兆候が単純に急激なインフレの終了を意味しているかというと単純にそうとは言い切れませんが、長期的にはインフレの沈静化に一役買うのではと期待されています。

まだまだ終わりの見えないインフレですが、数ヶ月以内にアメリカの金利政策の結果が良い方向に出ていることを願うばかりです。